小さな生き物の感想

 スピッツは震災を乗り越えて生まれ変わったのだろうか。なんというかさらにもう1個殻を破った、そんな感じがするのです。ざっと感想を書きます。

  1. 未来コオロギ:イントロで流れてくる、ミレドシラソファミレド~♪と下降していくギターの10音が聴こえてくるだけで、何とも形容しがたい気持ちがこみあげてくる。このフレーズは間奏でも最後でもしつこく流れるんだけど、このアルバムを象徴する音といっても過言ではないほど印象的。あとバックのピアノもいい。未来コオロギという謎のモチーフをテーマにした歌だけど、曲自体はスピッツの王道スタイル。未来は自分で決めて歩き出そうという、極めて前向きな世界が歌われている。3.11から立ち直ったマサムネの決意の歌なんだろうか・・・。
  2. 小さな生き物:これもまた、どうしちゃったの?と言いたくなるほど前向きな曲。「それでも進む」とか「そこから始めよう」とか、自分自身も小さな生き物だが、小さな生き物を守るために生きていこうという感じか。タイトルナンバーですが、アルバム全体で見るとシンプルでさらっとした曲。
  3. りありてぃ:前作でいうところの「恋する凡人」のような、ストレートなロックナンバー。ライブ映えしそう。この曲に出てくる「金魚」がブックレット全体の装丁のモチーフになってます。やはり小さな生き物か。歌詞も前2つに比べると暗喩的でロック感溢れているけれど、「水槽の外に出たいな」という詞は閉じこもった世界の脱却を意味しているのか。
  4. ランプ:一旦休憩という感じで、静かなラブソング。しかし多分、歌の主人公は何かの理由で何もかも失ってしまったんだろうが、なぜ生きてるのか、それは貴方に会うため、という。一見シンプルな歌なんだけど震災を意識するとなかなかに重い。
  5. オパビニア:一転して、「さざなみ」や「君は太陽」を思わせるアップテンポな明るいロック。サビも強いし口ずさみたくなる。オパビニアってのは古生代の奇妙な生命体だとか。語感も楽しくて、歌詞にも出てくるが、特にストーリーとの繋がりはない・・と思う。
  6. さらさら:やはりこのアルバムの中での完成度は一番だと思う。「ロビンソン」「ホタル」「スターゲイザー」「ビギナー」あたりの流れを汲む王道スピッツ節なので、'10年代のスピッツを代表する曲になってほしい。タイトル通り、全体的にさらっとしたイメージで、歌詞には「雨」「魚」「湖」など、水をイメージするようなワードがそこここに登場する。しかし、どことなく大切な人の死を思わせる世界観に見えるのは自分だけ? 眠りにつくまでそばに・・指先の冷たさ・・永遠なんてないから・・悲しみは忘れないまま・・等、震災の影響は色濃い。それでも、朝が来るって信じてる、という言葉がこれまでにない強さを感じる。
  7. 野生のポルカ:何だこりゃ(笑)。楽しいぞコレは。野生の世界に飛び出そう!という曲なんだが、武蔵野とか具体的な地名が出てくるあたりが笑える。最後にメンバーやらゲストやらプロデューサーやら総動員で大合唱が始まってさらに笑える。「戻る がんばる」って歌詞が好き。
  8. scat:久々のインスト。ものすっごい気に入ったんですよコレ。アイーンとかアーイヤーイヤーとか、マサムネの透き通ったスキャットが美しすぎる。アルバム中盤でスピッツのギターパワーを再確認するための曲です。たぶん。
  9. エンドロールには早すぎる:はっきり言ってイントロだけで笑ってしまう。ここまでディスコ丸出しな曲は初めてだよな。よう作るわ。80年代ディスコミュージックが好きな自分にとってはもうメロディラインが好みど真ん中なんだけど、この曲をスピッツ自身も「ダセエなあ」と思いながら演じているのか。手拍子まで入っちゃってるし。タイトルからしたらアルバムの最後に持ってきてもいいのに、と思うが、中身を見るとバブルノリの失恋ソングで、こりゃ確かに最後には向かんわな。打ち込み曲ですがデラックス版のDVD(BD)にはライブ版も収録されてるのでそちらも必見。ミラーボール(笑)。
  10. 遠吠えシャッフル:文字通り軽く短く、シャッフル感溢れる曲。曲の感じが軽い割に、結構反正義というかロックなメッセージを唄っている。カフェラテを茶碗で飲み干したっていいだろ、俺は俺のやり方でやるんだ! という叫びが聞こえてきそう。
  11. スワン:このアルバムの中ではランプとペアになりそうな、しっとりと聞かせる曲。これまた恋人との死別を思わせる哀しい曲で、怖い夢からさめて君の笑顔を思い出すってのが想像すると結構苦しいなあ・・・。自立が歌詞で直接的に語られてるわけではないんだけど、きっちりと前を向いてることは曲調から伝わってくるのが不思議だ。
  12. 潮騒ちゃん:博多弁まで登場するとにかくヘンな曲。ヘンな曲だが、潮騒潮騒潮騒ちゃん♪のフレーズが楽しくて、実はアルバムの中でいちばん口ずさみやすい曲かも。すげー耳に残るしキャッチーだ。中盤のテツヤ氏の「行こうぜ―!」に毎回吹いてしまう。ライブ版では田村さんが叫んでるけど。曲調は全然違うが前作で言うと位置づけは「どんどどん」にあたるのか。ちなみに潮騒のメモリーとは一切関係ありません。
  13. 僕はきっと旅に出る:情景の想像しやすい歌詞と強いサビで、ものすごく素直な歌。廃墟の中から外を眺めるという暗い感じと、青い翼広げて旅に出るという明るい感じが入り交じる。これをアルバムの最後に入れて、さあ旅に出ようというストーリーだとしたら上手い構成だ。この曲をポケットに入れて旅に出たくなるね。それも初夏に。もう遅い・・・。
  14. エスペランサ:限定版にしかないボーナストラック。スペイン語で「希望」。深い眠りに落ちていく途中のような、子守唄のような、そんな静かな曲。おまけの曲だから当たり前かもしれないが、印象としてはいちばん薄い。